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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)2205号 判決

甲事件原告乙事件被告 谷治雄

右訴訟代理人弁護士 別府祐六

右同 阿比留兼吉

右同 人見福松

右同 横山寿

甲事件被告乙事件原告 丸一産業株式会社

右代表者代表取締役 大垣嘉一

右訴訟代理人弁護士 中込尚

右同 小林勝男

乙事件被告 株式会社松坂屋

右代表者代表取締役 伊藤次郎左衛門

右訴訟代理人弁護士 兼藤栄

右同 兼藤光

主文

一  甲事件原告谷治雄の請求を棄却する。

二  別紙物件目録記載の土地、建物の所有権が乙事件被告谷治雄および同被告株式会社松坂屋のいずれにも存しないことを確認する。

三  乙事件被告株式会社松坂屋は同事件原告丸一産業株式会社に対し、別紙物件目録記載の土地、建物につき東京法務局渋谷出張所昭和二五年七月一一日受付第九二九九号をもってした抵当権設定登記および同出張所同日受付第九三〇〇号をもってした所有権移転請求権保全仮登記について、昭和四三年六月一七日代位弁済を原因とする各移転登記の附記登記手続をせよ。

四  訴訟費用は、甲乙両事件を通じてこれを三分し、その二を甲事件原告(乙事件被告)谷治雄の負担とし、その余は乙事件被告株式会社松坂屋の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  甲事件

1  原告谷治雄

(一) 被告丸一産業株式会社は原告に対し、別紙物件目録記載の土地、建物につき株式会社松坂屋が東京法務局渋谷出張所昭和二五年七月一一日受付第九三〇〇号をもってした所有権移転請求権保全仮登記の本登記手続をすることを承諾せよ。

(二) 訴訟費用は被告丸一産業株式会社の負担とする。

との判決。

2  被告丸一産業株式会社

主文第一項と同旨および「訴訟費用は原告の負担とする」

との判決。

二  乙事件

1  原告丸一産業株式会社

(第一次請求)

主文第二、第三項と同旨の判決。

(予備的請求)

(一) 被告株式会社松坂屋と根本富滋との間に昭和三九年四月一四日頃別紙物件目録記載の土地、建物につきなされた代物弁済は取消す。

(二) 被告株式会社松坂屋と同谷治雄との間で昭和三九年八月三日右土地、建物につきなされた売買契約は取消す。

との判決。

2  被告株式会社松坂屋および同谷治雄

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

(甲事件)

一  請求の原因

1 別紙物件目録記載の土地、建物(以下、両物件を含めて本件不動産という)は、もと根本富滋の所有であった。

2 株式会社松坂屋(乙事件被告、以下、松坂屋という)は、昭和二五年五月一三日根本に対し五〇万円を、弁済期昭和二六年五月三一日、根本が弁済期に完済しないときは元金に対し借入の日から完済まで年一割の割合による利息および遅延損害金を付して支払う、との約定のもとに貸与した。

そして根本は、同日右貸金の担保のため、松坂屋に対し本件不動産に抵当権を設定することを約すとともに、根本が弁済期に債務を弁済しないときにはその債務の支払に代えて本件不動産の所有権を松坂屋に移転することができる旨の代物弁済の予約をし、かつ、同年七月一一日松坂屋のために本件不動産につき、東京法務局渋谷出張所受付第九二九九号をもって抵当権設定登記を、同出張所受付第九三〇〇号をもって所有権移転請求権保全の仮登記をそれぞれ経由した。

3 松坂屋は、昭和三九年四月一三日付同月一七日到達の内容証明郵便にて、根本に対し本件不動産の所有権を右貸金債務の支払に代えて取得する旨の意思表示をした。

4 原告(乙事件被告谷治雄)は、昭和三九年八月三日松坂屋から本件不動産を一〇〇万円で買受けた。

5 本件不動産には、右仮登記におくれて被告丸一産業株式会社(乙事件原告)のために、東京法務局渋谷出張所昭和三八年七月一一日受付第一八九二三号および同出張所同年八月二六日受付第二三九五二号をもって、それぞれ抵当権設定登記が経由されており、そして被告は、昭和三九年五月二九日後者の抵当権に基づきその実行手続をなし(東京地方裁判所昭和三九年(ケ)第四五四号)、同日競売手続開始決定がなされ、同年六月一〇日その旨の登記が記入された。

6 そうすると、被告は、不動産登記法一〇五条一項、一四六条一項に基づき松坂屋に対し松坂屋が前記所有権移転請求権保全の仮登記に基づく本登記手続をなすことについて承諾する義務があり、そして原告は、松坂屋から本件不動産の所有権移転登記を受ける権利を有するから、松坂屋に代位して被告に対し右承諾をなすよう求めるものである。

二  請求の原因に対する答弁

1 請求の原因1および2は認める。

2 同3および4は否認する。

3 同5は認める。

三  抗弁

1 松坂屋が昭和三九年四月一七日になしたという根本に対する代物弁済予約完結の意思表示、ならびに松坂屋と原告との間で同年八月三日なされたという売買契約は、いずれも通謀による虚偽表示であって無効である。

すなわち、根本とその内縁の夫である谷正之(原告の実兄)が被告の本件不動産に対する抵当権の実行を妨害するため、松坂屋が代物弁済の予約完結権を行使したかのように記載した通知書の原案を作ってこれを松坂屋に示し、松坂屋と通謀してその書面を作成し、松坂屋が根本に対し代物弁済予約の完結権を行使したかの如く仮装したものであり、さらに、松坂屋と原告が通謀して、真実は売買をする意思がないのに、被告の抵当権の実行を妨害する目的で、売買契約をしたものである。

2 仮に右主張が認められないとしても、松坂屋のなした右行為は、暴利行為もしくは権利の濫用であって無効である。

すなわち、代物弁済および売買は、その動機において松坂屋が仮登記のあることとその形式を利用し、さらには第三者に売買したという形式を利用して後順位権利者である被告の抵当権の実行を排斥し、もってその権利を侵害しようとする点にあったことが明らかであり、かつ松坂屋は、当時根本に対し債権を有していたとはいえ、それはわずか元利合計しても約九七万円にすぎず、時価一〇〇〇万円を超える本件不動産を取り上げる必要もなかったのに、これを取得しようとするものであるから、代物弁済予約完結権の行使は暴利行為にあたり、また売買は信義に反し権利の濫用にあたる。

3 仮に代物弁済予約完結の意思表示および売買が有効であるとしても、松坂屋および原告は、いずれも本件不動産につき所有権移転の本登記を経由していない。しかして被告は、昭和四三年五月三一日松坂屋に対し同日現在の根本の債務元利金合計一一五万一一五円を根本に代位して弁済の提供をしたがその受領を拒絶されたので、同年六月一七日これを弁済供託した。

したがって、松坂屋の被担保債権は消滅したし、根本は、本件不動産の所有権を取戻した。

4 仮に然らずとするも、松坂屋の代物弁済予約上の権利は、貸金の担保のために設定されたものであるから、松坂屋は、本件不動産を適正評価もしくは換価処分し自己の元利金を超える部分は清算金として支払う義務がある。そして、原告は、松坂屋に代位し被告に対し仮登記の本登記手続をすることにつき承諾を求めている以上、被告は、原告および松坂屋が右清算金を被告に支払うのと引換えにのみ右承諾をなせば足りるものである。

ところで、本件不動産の適正価格は、昭和四八年九月一日現在で八二〇九万三〇〇〇円であり、それに対し松坂屋の根本に対する元利金は、一一三万五一四二円にすぎないから、原告および松坂屋の支払うべき清算金は、八〇九五万七八五八円である。したがって、被告は、原告および松坂屋が各自金八〇九五万七八五八円とこれに対する昭和四八年九月二日から完済に至るまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うのと引換に本登記をすることを承諾する。

5 仮に本件仮登記上の権利が帰属清算型の担保であり、かつ、原告と松坂屋間の売買が有効に成立したとしても、目的物価額の評価は、客観的に妥当性を保有させねばならぬ義務を原告らは負っている。本件不動産の適正価格は前述のとおりであるところ、これをわずか一〇〇万円で処分することは極めて不当低廉であり、原告らは故意過失により根本の財産を害し又は松坂屋には根本に対する担保権者としての善管注意義務に違反する債務不履行があり、原告は右事情を知ってこれに加たんしたものである。したがって、原告および松坂屋は、各自少くとも八二〇九万三〇〇〇円から松坂屋の債権元利金一一三万五一四二円および売買価額一〇〇万円を控除した七九九五万七八五八円とこれに対する売買のなされた日の翌日である昭和三九年八月四日から完済までの民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、そしてこれは被告の本登記をすることに承諾することと引換に履行さるべきである。

四  抗弁に対する答弁ならびに原告の主張

1 抗弁1および2は否認する。

2 同3のうち、原告および松坂屋が本件不動産につき所有権移転の本登記を経由していないことは認めるが、被告がその主張の日に一一五万〇一一五円を弁済供託したことは知らないし、その余は争う。

仮に被告の弁済供託が認められるとしても、それは、すでに被担保債権が消滅した後になされたものであるから無効である。

3 同4および5は否認する。

本件代物弁済予約上の権利行使には、清算義務を伴うものではない。

すなわち、根本は、昭和二五年本件土地を一〇万円で買い、かつ、その土地上に本件建物を七〇万円で建築したのだから、本件不動産を八〇万円で取得したものである。他方、松坂屋は、根本に対し昭和二五年五月一三日五〇万円を貸与し、本件不動産に第一順位の抵当権設定登記をなすべく準備中、根本から再度金員貸付の要請があったため、当時松坂屋の副社長であった佐々部晩穂は、同年七月一一日個人名義で根本に対し三〇万円を貸与し、本件不動産につき第二順位の抵当権設定契約をした。しかして、右各登記をなすにつき、本件不動産の時価は七七万五二六〇円と評価され、その担保力に不安があったから、松坂屋は、第一順位の抵当権の設定とともに、特に代物弁済の予約をしてその仮登記を経由したのである。このように契約時における本件不動産の時価と被担保債権額とは、合理的均衡を保っている等の事情からすれば、本件の場合、松坂屋に清算義務はないというべきである。

もし、清算義務を負うとしても、それは根本に対し債権者たる松坂屋が負うにすぎず、根本と何んら債権債務関係のない原告に対し清算金を請求しえない。

(乙事件)

一  請求の原因

1 原告(甲事件被告)丸一産業株式会社は、根本に対し昭和三八年七月九日に四〇〇万円、同年八月二六日に二五〇万円を、いずれも弁済期同年一一月一〇日と定めて貸与し、かつ、根本は、原告に対し右の各貸金の担保としてその所有する本件不動産にそれぞれ抵当権を設定する旨約し、そして、本件不動産につき東京法務局渋谷出張所昭和三八年七月一一日受付第一八九二三号および同出張所同年八月二六日受付第二三九五二号をもって各抵当権設定登記を経由した。しかるに根本は、右弁済期に至るも貸金を返済しなかったので、原告は、昭和三九年五月二九日後者の抵当権に基づきその実行手続をし(東京地方裁判所昭和三九年(ケ)第四五四号)同日競売手続開始決定がなされ、同年六月一〇日同出張所受付第一五九〇五号をもって、本件不動産につきその旨の登記が記入された。

2 甲事件請求の原因2と同じ。

3 しかるところ、被告谷(甲事件原告)は、被告株式会社松坂屋(以下、被告松坂屋という)が根本に対し昭和三九年四月一七日代物弁済の予約完結の意思表示をして本件不動産の所有権を取得し、ついで被告松坂屋から同年八月三日本件不動産を一〇〇万円で買受けた旨主張し、原告を相手どり原告の申立てた前記競売手続停止仮処分決定をうるとともに、被告松坂屋に代位して仮登記に基づく本登記をすることにつき承諾を求める訴を提起した(甲事件)。

4 甲事件抗弁1ないし3と同じ。

5 よって、原告は被告らに対し、本件不動産の所有権が被告らに存しないことの確認を求めるとともに、被告松坂屋に対し、代位弁済を原因として前記抵当権設定登記および仮登記の移転の各附記登記手続をすることを求める。

6 仮に代物弁済予約完結の意思表示および売買契約が有効に成立したとしても、これらはいずれも被告松坂屋と根本および被告谷がそれぞれ通謀し、原告の抵当権の実行を妨害する意図のもとになされたものであるが、当時根本は本件不動産以外にみるべき資産を有していなかったから、本件不動産を代物弁済に供すれば債権者を害することを知っていた。また、被告らの間の売買契約も詐害行為に当るというべきである。

7 よって、右代物弁済の合意および売買契約は取り消さるべきである。

二  被告谷の本案前の主張

原告は、昭和四九年一二月一九日付準備書面をもって、従前の訴を前記(当事者の求めた裁判二)のとおり訂正変更した。

ところで、その第一次請求は、従前の請求((一)本件不動産の所有権が根本に存する旨の確認請求、および(二)被告松坂屋に対する弁済供託金の受領と引換に本件抵当権および仮登記の各抹消請求)と著しく異なり、また本件不動産に対する所有権帰属関係は根本を加えずして十分に目的を達しえないし、さらに、その第二次請求は、訴状に全く記載のない請求であるから別訴に等しい。そしてまた、右訴の訂正変更は、訴訟を著しく遅延させるものである。よってこれは許されないというべきである。

三  請求の原因に対する答弁ならびに主張

1 被告谷

(一) 請求の原因1のうち、本件不動産がもと根本の所有であったこと、原告主張の各抵当権設定登記がなされていること、原告主張の日にその主張する抵当権に基づき競売の申立および競売開始決定がなされ、かつ、その旨の登記がその主張する日に記入されたことは認めるが、その余は知らない。

(二) 同2および3は認める。

(三) 同4は甲事件抗弁に対する答弁と同じである。

(四) 同5は争う。

(五) 同6は否認する。

(六) 同7は争う。

2 被告松坂屋

(一) 請求の原因1ないし3は、被告谷の答弁と同じである。

(二) 同4のうち、甲事件抗弁1および2に該当する事実は否認する。甲事件抗弁3の事実のうち、被告松坂屋が本件不動産につきいまだ所有権移転登記を経由していないこと、原告が主張する日にその主張する金員の弁済供託がなされたことは認めるが、その余は否認する。

右弁済供託は、被告松坂屋が代物弁済予約完結の意思表示をした昭和三九年四月一七日よりも後になされたものであり、そして被告松坂屋は本件不動産を同年八月三日被告谷に譲渡して処分したのであるから、たとえ所有権移転登記が完了していないとしても、代物弁済による所有権移転は確定的となり、もはや根本は被担保債権を弁済してその所有権を受戻しえぬから、原告が根本に代って弁済供託しても、弁済の効力はない。

なお、本件仮登記担保は、債権者たる被告松坂屋の清算義務のないものである。すなわち、当時被告松坂屋の副社長であった佐々部晩穂は、根本より金員貸付方を懇請されて、昭和二五年五月一三日被告松坂屋が根本に五〇万円を貸与するとともに、第一順位の抵当権設定契約を締結したが、その当時本件不動産は、所有権移転登記ないし保存登記を完了していなかったため、その完了をまって右抵当権設定登記をなすべく準備していたところ、再度根本から金員貸付の要請を受け、同年七月一一日個人名義で金三〇万円を根本に貸与し、かつ、第二順位の抵当権設定の契約を締結し、同日第一順位および第二順位の各抵当権設定登記をなすに当り、当時本件不動産の価額が約八〇万円と評価され、その担保力に疑問がもたれたので、右第一順位の抵当権設定とともに、代物弁済の予約をして、各登記を経由したのである。したがって、根本に対する金員貸付とその抵当権設定は形式上被告松坂屋と佐々部の二つに分けられるが、実質的には合計金八〇万円を貸与したものというべく、契約時における本件不動産の価額とまさに合理的均衡を保っていた。また、単に被告松坂屋の貸付分のみについて考えても、その弁済期日が一年余り先に約定され、利息については、元金を期日に完済しなかったときは借用日から完済まで年一割の利息および遅延損害金を付して支払うという約定がなされ、相当長期にわたる貸借が当事者間で合意されていることを併せ考えると右の合理的均衡を失するものとはいえない。したがって、本件の代物弁済予約は、清算型のそれとはいいえない。

(三) 同5は争う。

(四) 同6は否認する。

原告が根本に金員を貸付けたのは昭和三八年八月二六日であるから、被告松坂屋が本件代物弁済予約を締結するについて詐害の目的がないことはいうまでもなく、被告松坂屋は、右予約に基づき完結の意思表示をしたにすぎないものであり、本来根本に対し債権を有しているのだから悪意の受益者であるはずがない。また、被告松坂屋が同谷に本件不動産を譲渡したことについては、原告は被告松坂屋に対し何ら債権を有するものでないから、右法律行為に対する詐害行為取消権は原告には全くない。

(五) 同7は争う。

第三証拠≪省略≫

理由

一  乙事件に関する同事件被告谷(甲事件原告、以下両事件を通じ、単に原告という)の本案前の主張の当否

乙事件原告丸一産業株式会社(甲事件被告、以下両事件を通じ、単に被告丸一産業という)が昭和四九年一二月一九日付準備書面(昭和五〇年三月三日の第五九回口頭弁論期日で陳述)において、原告主張のとおり乙事件の第一次請求を変更したこと、従前のその請求が原告主張のとおりの内容であったことは、本件記録上明らかである。しかし、この変更には、前後請求の基礎に同一性が欠けるとは到底いえないし、また本件不動産の所有権帰属に関する確認についても、もともと本件不動産が根本富滋の所有であったこと自体は当事者間に争いがなく、その現在の帰属が被告丸一産業と原告および乙事件被告株式会社松坂屋(以下、被告松坂屋という)との間でのみ争いとなっている以上、この紛争にあえて根本を加えねばならぬ法的必要性は全くないから、右変更が不適法とはいえない(なお、原告は、右準備書面で陳述した第二次請求が全く別訴に等しい、という趣旨の主張をするが、記録によれば、被告丸一産業はすでに昭和四四年五月一二日の第二九回口頭弁論期日で陳述した昭和四四年三月二四日付準備書面において、同一の請求を追加しているのであって、前記準備書面ではじめて新たに追加した請求でないから、原告の右主張は全くとりえない)。そして、第一次請求の基礎となる事実関係、法律上の主張ならびに証拠関係も従前と同一で変化はなく、新たな主張や証拠の提出等の訴訟行為を要しないから、右変更が著しく訴訟の遅延をきたすものとはいえない。

二  当事者間に争いのない事実

1  被告松坂屋は、昭和二五年五月一三日根本に対し五〇万円を、弁済期日昭和二六年五月三一日、根本が弁済期日に完済しないときは元金に対し借入の日から完済まで年一割の割合による利息および遅延損害金を付して支払う。との約定のもとに貸与し、そして根本との間でその担保として根本の所有する本件不動産に抵当権を設定することを約すとともに、根本が弁済期日に債務を弁済しないときはその支払に代えて本件不動産の所有権を被告松坂屋に移転することができる旨の代物弁済の予約をし、かつ、本件不動産につき東京法務局渋谷出張所昭和二五年七月一一日受付第九二九九号および第九三〇〇号をもって抵当権設定登記および所有権移転請求権保全仮登記をそれぞれ経由した。

2  他方、本件不動産には、被告丸一産業のために東京法務局渋谷出張所昭和三八年七月一一日受付第一八九二三号および同出張所同年八月二六日受付第二三九五二号をもってそれぞれ抵当権設定登記が経由されており、そして被告丸一産業は、昭和三九年五月二九日後者の抵当権に基づき本件不動産の競売を申立て(東京地方裁判所昭和三九年(ケ)第四五四号事件)、同日競売開始決定がなされて同年六月一〇日その旨の登記が記入された。

3  その後、原告は、被告松坂屋が昭和三九年四月一七日根本に対し代物弁済の予約完結の意思表示をして本件不動産の所有権を取得し、かつ、同年八月三日被告松坂屋から本件不動産を一〇〇万円で買受けたと主張し、被告丸一産業を相手どり前記競売手続停止の仮処分決定をうるとともに、本件甲事件を提起した。

以上の事実は、当事者間に争いがない。

三  被告丸一産業と根本との間の消費貸借契約および抵当権設定契約の成立

≪証拠省略≫によれば、

被告丸一産業は、根本に対し昭和三八年七月九日に四〇〇万円、同年八月二六日に二五〇万円を、いずれも弁済期日同年一一月一〇日と定めて貸与し、そして根本との間で右各貸金の担保として根本所有の本件不動産にそれぞれ抵当権を設定することを約し、前記の各抵当権設定登記をそれぞれ経由したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

四  被告松坂屋の代物弁済予約完結権の行使と同被告および原告間の売買契約の成立ならびにそれに至るまでの経緯(被告丸一産業の虚偽表示および暴利行為の各主張に対する判断)

1  ≪証拠省略≫によれば、

根本は、被告松坂屋に対し昭和二八年九月一七日までに五回に分けて合計九万円(昭和二七年一二月二九日に二万円、昭和二八年一月三一日と同年三月一二日に各一万五〇〇〇円、同年四月一四日と同年九月一七日に各二万円)を貸金五〇万円のうち金として支払ったのみで、残金四一万円と利息および遅延損害金を支払わなかったため、被告松坂屋は昭和三九年四月一三日根本に対し代物弁済予約完結の意思表示をなし、右意思表示が同月一七日根本に到達したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  そして、≪証拠省略≫によれば、

被告松坂屋は、昭和三九年八月三日原告に対し一〇〇万円で本件不動産を売渡したことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

3  被告丸一産業は、右の代物弁済予約完結の意思表示ならびに売買契約はいずれも虚偽表示であると主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、前各証拠によればかえってしからざることが認められるから、右主張は理由がない。

4  前記当事者間に争いのない事実および右各認定の事実に、≪証拠省略≫を綜合すると、次のような事実が認められる。

(一)  根本が被告松坂屋から五〇万円を借受け、右両者間で本件不動産につき抵当権設定契約および代物弁済の予約をした当時の本件不動産の価格は、約八〇万円前後であり、最大限にみても九〇万円と評価されていた(なお当時、根本は被告松坂屋のみでなくその副社長であった佐々部晩穂個人からも三〇万円を借用し、本件不動産につき同人のために第二順位の抵当権設定登記をしている)。そして根本は、被告松坂屋からの再三の返済要求にもかかわらず、前述のとおり昭和二八年九月一七日までに合計九万円を返済したのみで、その余は支払わず、また被告松坂屋も抵当権の実行もしくは代物弁済予約上の権利の行使もせず時を経過し、根本は事実上の夫婦関係にある谷正之(原告の実兄)とともに本件不動産の一つである別紙物件目録二記載の建物(その敷地が同目録一記載の土地)に居住して来ていた。

(二)  かくして、根本は、昭和三八年七月九日四〇〇万円、同年八月二六日二五〇万円をそれぞれ被告丸一産業から借用したが、その際被告丸一産業は、本件不動産にすでに前記の抵当権等が設定されていることを知っていたが、根本および正之が被告松坂屋の借金は返済しなくてもよい性質のものだと嘘をいったことや、被告丸一産業において当時の本件不動産の時価を二〇〇〇万円近いものと見積っていたこと、さらには被告松坂屋の残元本が四一万円という少額であったから場合によっては被告丸一産業で代位弁済して被告松坂屋の抵当権等を消滅できるものと考えたこと等の事情で、根本に対し右金員を貸与することにした。しかし、根本は、右貸金の返済期日を経過しても、再三の支払要求にもかかわらず、これを全く支払わなかった。

(三)  そこで被告丸一産業は、昭和三九年三月一三日付翌一四日到達の書面で根本に対し、元利金合計七六五万五五一四円を支払うよう催告すると同時に、もし弁済しないときは担保物件たる本件不動産を処理する旨通知し、また他方その頃、被告丸一産業の代表者大垣嘉一は現金一二〇万円を所持して被告松坂屋の総務部長であった青山泰蔵を訪ねて、根本の債務を代位弁済するから抵当権等を抹消してくれるよう要求したが、しばらくして被告松坂屋はこの問題を独自に処理するといってこれを断った。被告松坂屋は、おそくともその頃までに後順位抵当権者として被告丸一産業のいることを知っていた。

(四)  一方根本は、正之の友人である丸山秀一と相談し、本件不動産に対する被告丸一産業の抵当権の実行もしくは被告丸一産業に本件不動産の所有権をとられる事態を免がれようと目論み、昭和三九年三月二四日本件不動産につき売買を原因として丸山名義の所有権移転登記を経由し、さらにはその頃、どうせ被告丸一産業に本件不動産をとられるのなら被告松坂屋に対してこれを代物弁済に供した方がよいと考えるに至り、同年四月一三日以前に数回正之とともに被告松坂屋に赴き青山と会い、他に本件不動産がとられると困ると述べて、これを代物弁済にとってくれるよう依頼し、同年四月一三日には正之とともに被告松坂屋の東京本部で青山に対し代物弁済の原稿(甲第一三号証の一と同趣旨のもの)を持参して呈示し、かつ、代物弁済をしたならば被告松坂屋に帰属するに至るであろう本件不動産を正之に売ってくれるよう要請した。

(五)  ところで、被告松坂屋としては、根本に対する貸金の問題を早く決着したかったことと、元利金(同年三月三一日現在、残元金四一万円、同日までの利息および遅延損害金が五六万九二八二円で、元利金合計九七万九二八二円であることを双方確認している)さえ回収されれば、本件不動産を誰れに売ってもよいと考えていたので、根本らの右要請を入れて同年四月一三日付で代物弁済予約完結の意思表示をする旨の書面(甲第一三号証の一)を作成し、これによって根本に対し右意思表示をし、続いて昭和三九年八月三日被告松坂屋は、ふたたび根本および正之の要望を受けて本件不動産を正之にではなく原告に対し一〇〇万円で売渡し、右代金支払のため原告振出の約束手形の交付をうけ後日これが決済された。

その間、被告丸一産業は、同松坂屋に対し昭和三九年四月二二日付翌二三日到達の書面で、本件不動産に対する抵当権の実行通知をなし、かつ、その手続に入った。そして根本と正之は、原告に本件不動産が売渡された後もこれに居住しており、原告に対し賃料等の対価は支払っていない。

ところで、右代物弁済予約完結当時の本件不動産の価格は、低く見積っても約六五〇万円は下らなかった(乙第一六号証の鑑定書によれば金一七三八万円)が、根本と被告松坂屋との間では、貸金の元利金を超えるその価額について金銭的な清算をするかどうかの話し合いはなされなかった。

以上の事実が認められる。≪証拠判断省略≫

5  被告丸一産業は、同松坂屋のなした代物弁済予約完結の意思表示は暴利行為であり無効である旨主張するが、右認定の事実によると、右完結権の行使をうながしたのはむしろ根本の方であって、被告松坂屋において根本の無知とか窮状に乗じて本件不動産の所有権を取得する意思があったとは到底認められないから、右主張は採用できない。

五  本件不動産の所有権の帰属(被告松坂屋の被担保債権およびの担保権の帰すう)

以下、これまでに認定した事実をもとに考える。

1  根本と被告松坂屋との間に成立した代物弁済の予約は、被告松坂屋の根本に対する貸金債権を担保することを目的として締結されたものであることは明白である。とすれば、右予約の趣旨は、被告松坂屋が本件不動産の所有権を取得すること自体にあるのではなく、本件不動産の有する金銭的価値に着目し、その価格の実現によって自己の債権の排他的満足を得ることにあり、本件不動産の所有権の取得は、右の金銭的価値の実現手段にすぎないとみるべきであるから、この予約上の権利は、右当事者が別段の意思を表示し、かつ、それが諸般の事情に照らして合理的と認められる特別の場合を除いて、根本に履行遅滞があった場合に、被告松坂屋が、予約完結の意思表示をすることにより取得する本件不動産の処分権に基づき、本件不動産を適正に評価した価額で確定的にこれを自己の所有に帰せしめることにより、または相当の価格で第三者に売却等することによってこれを換価処分し、その評価額または売却代金等、つまり換価金から自己の債権の弁済を得ることを内容とするものであり、それ故、右換価金が被告松坂屋の根本に対する貸金債権額を超過する場合は、その超過額を清算金として担保義務者であり、かつ、債務者である根本に対し交付すべきである(最高裁判所昭和五〇年二月二五日大法廷判決参照)。

しかるところ、原告および被告松坂屋は、本件予約はそもそも清算義務のないもの、すなわち右説示でいう特別の場合に当る旨主張するが、これを認めるに足る証拠は全くない。また、≪証拠省略≫および前記認定の事実を綜合すると、被告松坂屋においては当初から終局的に本件不動産を自己の手元にとどめてこれを利用する意思のなかったことが認められるから、本件予約は、いわゆる処分清算型のものであったと解せられる。

2  したがって、被告松坂屋は、本来本件不動産を売却等して、その換価金が自己の債権額を超える場合、それを清算金として根本に交付しなければならなかったわけであるが、その清算金の支払時期は、本件のように処分清算の場合、第三者に対し本件不動産を相当な価格で売却する等して処分した時であり、この時点で被告松坂屋の債権は満足を得たことになって本件予約上の権利、つまり仮登記担保権も消滅し、根本は本件不動産の所有権を確定的に失うに至るが、その反面、根本は、右時期までに債務の全額を弁済して仮登記担保権を消滅させ本件不動産の完全な所有権を回復することができる(前掲最判参照)。

ところで本件の場合、予約完結権行使当時本件不動産の価格は少くとも六五〇万円を下らなかったのに対し、その当時の被告松坂屋の債権額は元利金あわせても約一〇〇万円にすぎなかった。にもかかわらず、右超過額の清算は何らなされていない。というよりも、むしろ予約完結権の行使を積極的にうながしたのは債務者たる根本自身であり、かつ、根本が自分の内縁の夫正之の実弟である原告に本件不動産を売るように働きかけている点からすると、根本には清算金の支払を求める意思など毛頭なかったはずであるし、被告松坂屋としても自己の債権さえ回収されれば良いと考え、根本および正之の要求を受けて、わずか一〇〇万円で本件不動産を原告に売却しているのであるから、超過額の帰属、清算金の有無などおよそ念頭になかったものと解せられる。しかし、このことは、黙示的に根本において清算金の支払請求権を放棄したか、清算金の支払義務を免除する合意が黙示的に根本と被告松坂屋との間で成立したのと同等に評価することができ、少くとも原告に対し本件不動産を売却するという形式によって実質的には清算金を根本に還元してしまうという結果をもたらしていることは否定できない。かかる行為もしくは結果は、本件不動産の余剰価値に着目してこれを担保に根本に対し金銭を貸与した被告丸一産業の権利(もし、根本が清算金交付請求権を確保していたならば、被告丸一産業は少くともこれに対し物上代位権を有するはずであった)を完全に否定するに等しく不公平であり決して許されてよいものではないし、ひいてこれを許容すれば後順位担保権者との関係で本件代物弁済予約上の権利を担保権とみる法的構成を無きに等しいものにするとさえいえる。のみならず、根本は、自己の債務を返済しないばかりでなく、あまつさえ被告丸一産業の正当な権利行使である抵当権の実行を回避もしくは阻止しようとする意図を有していたことは明らかであり、被告松坂屋の予約完結権の行使および本件不動産の処分行為は、根本からみればまさにその意図どおりの現われであったことは疑う余地がないし、被告松坂屋としても、もとより根本のような不当の動機に基づいて予約完結権を行使したり、本件不動産を売却したとまではいえないにしても、しかし、後順位抵当権者の在存することを知っていた以上少しく注意すれば自己の行為が後順位抵当権者たる被告丸一産業に不利益もしくは不公平な結果をもたらすことを知りえたのに、それ相当の理由があるならともかく、単に自己の債権が回収されれば良いという考えで一〇数年にわたって行使していなかった権利を根本らの要求を契機としてにわかに行使し、右の行為に出たのであるから、ただ自己が先順位の仮登記担保権を有するという一事によって、結果的には根本の不当な意図に同調し、これに協力したと解せられても仕方がないものと考える。

そうだとすると、予約完結権の行使自体はともかく(前述のとおり、これによって被告松坂屋は換価手続の前提となる本件不動産の処分権限を取得するにすぎない)、本件不動産の売却行為を本来の正当なる換価処分とみることは非常に疑問であり、これによって換価処分が完了し、被担保債権も消滅したこと、したがって根本が確定的に本件不動産の所有権を失った旨、原告および被告松坂屋が主張することは、被告丸一産業に対する関係では許されず、かかる主張はまさしく権利の濫用に当ると解するのが相当である。

3  さらにまた、被告松坂屋は、同丸一産業が自己の抵当権に基づき競売を申立てる以前に、本件不動産の換価手続の端緒である予約完結権を行使してはいるものの、しかし換価処分の時、すなわち右売買の時には、すでに被告丸一産業による競売手続が開始されていたのであり、したがって、被告松坂屋としては右手続に参加し自己の優先弁済権を主張すれば、十分に債権を回収し満足できたはずであったし、かつ、本件の場合換価後の清算を要しない場合とは到底いえず、また、被告松坂屋において特別自己の仮登記担保権の実行について何らかの正当な利益を有していたとも解しがたいから、右競売手続が開始している以上は、もはや被告松坂屋は、自己の仮登記が登記上先順位であることを奇貨として、既存の競売手続を無に帰せしめることまでして自己固有の権利実行手続に固執する正当な法的利益を有しないと解する(前掲最判参照)。したがって、被告松坂屋は、ひとたび換価手続に着手したとはいえ、競売手続が開始された段階でさらに進んで換価手続を続行する権限を失うに至り、右競売手続が存続している限り、換価手続の一環である換価処分を有効になすことはできなくなったものと解すべきである。故に、競売開始後の右売買は、少くとも被告丸一産業に対する関係で本来の換価処分としての効力を有しないものであると考える。

4  そうだとすると、いずれにせよ、被告丸一産業に対する関係で、本件不動産に対する被告松坂屋の仮登記担保権の実行としての換価処分はいまだ完了していなかったことになる。したがって、後順位抵当権者である被告丸一産業は、民法五〇〇条から明らかなとおり根本に代位しその被告松坂屋に対し負担している貸金債務(前述のとおり換価処分時にこれは消滅するが、それがいまだなされていないと解する以上、なお存在していることになる)を、同人の意思いかんにかかわりなく弁済する正当な利益を有するから、これを被告松坂屋に弁済して消滅させ、本件不動産の所有権を根本のもとに確定的に回復させることもできるはずである。

しかるところ、被告丸一産業が昭和四三年六月一七日被告松坂屋に宛てて一一五万一一五円を弁済供託したことは、右両当事者間に争いがなく、かつ、原告に対する関係においても、右事実は≪証拠省略≫によって認めることができる。そして≪証拠省略≫によれば、被告丸一産業は、昭和四三年五月三一日被告松坂屋に対して同日現在の根本の貸金債務元利金合計一一五万一一五円(昭和三九年三月三一日現在の貸金残元本四一万円と年一割の割合による利息および遅延損害金五六万九二八二円の合計金九七万九二八二円と昭和三九年四月一日から昭和四三年五月三一日までの右金四一万円に対する年一割の割合による遅延損害金一七万八三三円の合計額)を根本に代位して弁済の提供をなしたが、被告松坂屋がその受領を拒絶したため、前記のとおりこれを弁済供託したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

なお、前掲丙第二号証の一(昭和四〇年一〇月一五日付の被告松坂屋が同丸一産業に宛てた書面)には、昭和三九年三月三一日現在の利息および遅延損害金が金五九万五三二〇円であった旨の記載があり、したがってこれによれば右認定の同日現在におけるそれとは異なり金額も多いのであるが、さきに認定(前記四、4、(五))したとおり、右書面の作成される以前の本件代物弁済予約完結当時に、被告松坂屋と根本は同日現在の元利合計額が九七万九二八二円(うち利息等が五六万九二八二円)であることを双方確認しているのであるから、仮に右の書面の記載金額が正しいとしても、確認の額を超える部分については、被告松坂屋において免除したものと解すべきである。

したがって、右の弁済供託は有効であって、昭和四三年六月一七日被告松坂屋の貸金債権はこれによって消滅したと考えざるをえず、そうすると、結局根本は、本件不動産の所有権を同日確定的に取戻したことになり、さらには、右貸金債権の担保である被告松坂屋の抵当権および代物弁済予約上の権利は、いずれも法律上当然に被告丸一産業に移転したものである。

六  結論

1  以上のとおり結局、被告松坂屋は、本件不動産の所有権を確定的に取得するまでに至らなかったことになり、したがってまた、前記売買にもかかわらず、原告もこの所有権を得ることができず、これは現在、根本の所有に確定的に復帰している。それ故、原告および被告松坂屋が本件不動産の所有権を有していないことは明らかである。また、被告松坂屋は、仮登記担保権の実行手続の一環であるその仮登記に基づく本登記手続をすることの承諾を求める権利ももはや失っており、したがって当然原告もこれを代位行使することはできない。それどころかむしろ、その仮登記担保権は、被告丸一産業の代位弁済によって抵当権とともに同被告に移転しているから、被告松坂屋は、被告丸一産業に対し抵当権および代物弁済予約による所有権移転請求権保全仮登記の各移転の附記登記手続をする義務がある。

2  よって、原告の甲事件請求は理由がないので棄却することにし、被告丸一産業の乙事件第一次請求はいずれも理由があるので認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大澤巌)

〈以下省略〉

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